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CPAG conference
【報告】After New Confucianism : Whither Modern Chinese Philosophy ?

2013年9月6-7日
オーストラリア国立大学

レポート

2013年9月6日・7日の両日、オーストラリア国立大学において国際会議「After New Confucianism: Whither modern Chinese philosophy」が開催された。「新儒家以後:現代中国哲学の行方」というこの題目が表すのは、現代新儒家の流れを汲む思想が今日どのような問題を抱えているか、また現代中国哲学はどこへ向かうべきか、という主題である。きわめて活発な討論が行われたその内容を十分に紹介することはもちろんできないが、参加者の一人として以下に簡単に報告をさせていただきたい。

一日目、シドニー経由でキャンベラに到着し、会場となるオーストラリア国立大学に昼前に到着してほどなくして、さっそく会議は始まった。最初に、会議をサポートするCPAGプロジェクトのリーダーである中島隆博(東京大学)による、開会の辞としての基調講演が行われた。内容は、グローバル化がますます進んでいる現代において、どのように「普遍性」を再考するかという、プロジェクト全体に関わる基本的な課題提示であった。この基調講演を受けて、各参加者が自己紹介を兼ねてコメントを行い、また、今回の会議の進行方針が定められた。それは、当初予定されていた各発表者の発表時間を大幅に短縮し、質疑応答や議論に十分な時間を確保するというものだったが、結果的には、この決定により、会議がきわめて実り豊かなものとなった。

第一セッションでは、張政遠(香港中文大学)・石井剛・林永強(東京大学)の三人の発表が行われた。張は、勞思光の文化哲学を題材に、中華ナショナリズムによらない中国文化理解の可能性を問う発表であった。そこでは、ヘーゲルの歴史観や文明観をいかに理解するかが一つの争点となったが、これはその後も会議を通して議論されていくこととなる。石井は、胡適が戴震の経学的・考証学的な姿勢を、いかに社会に対する批判となりえているかという観点から理解したということを題材に、近現代中国における批判的思考の一つのあり方を示した。これは、現代における「儒学」思想のあり方そのものに揺さぶりをかける、中国近代思想史ならではの強力な議論であった。林は、後期牟宗三の『円善論』に見られる最高善をめぐる議論を手掛かりとしつつ、牟宗三解釈における「創造的転化」と「批判的継承」の区別を援用し、さらに傅偉勲における「創造的解釈学」や中島による「批判儒教」などの概念に話を広げるという発表を行った。

第二セッションでは、中島隆博と、今回の会議のホストであるジョン・メイカム John Makeham(オーストラリア国立大学)による発表が行われた。中島は、唐君毅を中心に中国思想における普遍性を考察し、天下や理、さらには華夷の区別などをめぐって最近の議論を幅広く参照しつつ、「フクシマ以後」の現代思想のあり方に話を広げた。講演は、唐君毅が1957年に日本を訪問した時の、原子力発電をめぐる楽観的なコメントを批判的に引用することで逆説的に締めくくられ、深い印象を与えた。一方、メイカムの発表は、熊十力による唯識解釈をめぐるものであった。予稿集に論文が収録されていないため、口頭発表をもとに私なりに内容を再構成してみよう。新儒家の創始者である熊十力は、真諦に代表されるような「古唯識」を重視することによって、玄奘の「新唯識」を重んじる当時の中国仏教革新の主導者・欧陽竟無や呂徴と対決したが、「真の仏教」を標榜する後者と、熊から牟宗三に受け継がれる「中国仏教」重視の姿勢との対立は、新儒家が中国思想のハイブリッド性を評価する立場であったことを示している。こう述べるメイカムは、新儒家思想の系譜学によって現在の「新儒家」理解をいわば脱構築しようとする。


ジョン・メイカム教授

二日目、第三セッションでは、王耀航(香港中文大学)・ファビアン・ホイベル(台湾・中央研究院)、そしてわたし朝倉の発表が行われた。王はハイデガーを援用することで、新儒家の主流を占めたカント的解釈とは異なる新たな孟子解釈の可能性を示した。ホイベルは、新儒家が当初もっていた批判的精神が今日失われていることに憂慮を示し、フランクフルト学派的な批評理論と結び付ける必要について述べた。朝倉は、牟宗三以降の新儒家と、戦後京都学派とりわけ西谷啓治と高山岩男による展開が、いかに理論的に接近を見せているかを概観し、両学派の理論的結合の可能性を示す発表を行った。

最後に、二時間にわたる全体討論が行われた。会議のテーマ「新儒家以後:現代中国哲学の行方」の内容が参加者によって深く共有されていることが確認されるとともに、それぞれの参加者が異なった方向から、新儒家を中心とする中国語圏の現代哲学の問題点を今後も追究していくということが合意された。また、会議後も参加者たちによって、議論は止むことなく続けられた。このように会議が深い共感により一致した方向性をもつことは、今日の学術研究においては稀なことのように思う。ひとえに、林永強による企画立案が、時代が抱える問題を鋭く捉えていることによる、と言えるのではないだろうか。参加者の多くは、立案者を含めて比較的若い世代の研究者であり、討論の内容は、今後の参加者たちの仕事に反映されていくことが予想される。そのような将来の展開に思いを馳せつつ、この短い報告を終えようと思う。

報告:朝倉友海(北海道教育大学)